リアルなお店のできること。
7月に鳥屋野のおしゃれな家具屋さん「S.H.S」さまに出店させていだだき、実りある一年間でした。新店舗のEISHINDO BOOKSは、その店つくりから、従来の書店ではありえないことから始まっています。まず店のレイアウトというか空間は、本が並ぶ前に完成していました。書棚も作っていただきました。引渡しに案内された店舗空間は、今だからこそ言いますが、雑貨が並んでいるようなイメージしか浮かんでこない状態でした。それまでの期待感が、一気に不安感に変わった瞬間でもありました。そしてオープンした店はまるでショールームのようで、お客様には「ここの本は買えるのですか?」と聞かれる有様でした。本をきれいに並べることの何が違っているのかを考える日々です。そして少しわかったことは、本は、ほかの物販とは違っていること。統一ジャンルやテーマ、さらにはテイストまでも揃えてしまう物販販売に倣って棚つくりをしてしまうと、売り場がどんどん薄くなってゆくことに気づきました。書店の売り場が大型化することに伴い、ジャンルわけをきちんとやって、よりわかりやすく並べることが当たり前だと思っていたのですが、好き嫌いという二択しかないような売り場はすぐに飽きがきてしまいます。するとできることを極端に言えば、ベストセラー中心の品揃えか、倉庫のような店を目指すかしかありません。合理化か品揃えかを支える売り場が単純化したものでしかなくなったときに、本の魅力は失われてゆきます。一冊の本は読み手により様々な読み方ができます。それが長年読み継がれてゆくことにもなります。かつての小さい店舗は、一人のお客様が書棚をすみずみまで見てくれてお客様自らが編集作業をやってくれていたようなものでした。過剰に複雑な構成の書棚では困りますが、どこかお客様の?が生まれ、それに対する答えも用意してある棚が、今の理想の書棚です。実用書の中に小説を一冊だけ混ぜたり、異なったジャンルの本を一ヶ所にまとめてみることが、リアルな店にできること。それを互いに競うようになっていけば、実店舗はまだまだイケル気がします。えらそーな仕事論まとめ その1
従業員の作業時間が少なくてなかなか本屋シゴトのやり方を伝え切れていない気がして仕方ない。だったら、一旦文字にしてみようと思い立って書き始めたけど文章がヘタという致命的なことがわかっただけ。伝えるには程遠いのだ。本屋は長時間やってこそその面白さが分かるんだけど、就労時間のバランスを考えると実際に働いてもらうことはむずかしい。やり方を伝えようとすることはある意味かんたんだけど他人から教わるものではなくて自分で気づいていかなくては身につかない。本当は仕事が出来ても出来なくてもどうでもいいのかもしれない。売り上げさえあれば。そう、すべてはそこへ集約されてしまう。すると売り上げが取れる様なシステムを考えることがボクの役割か。ボクのスリップの扱い方

posレジを導入しているにもかかわらず、むかしからスリップで発注管理をする。大分類は単行本、実用書、児童書、学参、文庫、コミック。これがほぼ担当ごとの分類だ。以前に比べると種類が随分減ったなあ、なんて感傷的になっても売り上げがないのだから仕方ない。スリップ分けはなるべく手が止まらないようにしたい。棚の順番通りに並べ直していざ、棚へ、となる毎日なんだけど、けっしてやらないようにしていることは、スリップを持ちながらの棚整理。しかも、大して返品も出ない。時間がたっぷりあって、もっと売れていたときには放っておいたけど、こんなムダな作業は是非避けたい。品出し、棚整理、返品、在庫チェックは別々に行ないたい。棚整理と返品がきちんとできていれば在庫チェックは数分で終わる。でも在庫が十分な本の発注をしてしまった自分を責めることはままある。中途半端だけど、だいだいこんなものだ。
ボクの並べ方(文庫)

点数は多いし、毎日のように刊行される文庫をどう並べるかはいつも悩ましい。そして結構いい加減だ。POSデータを管理しているところはどうかわからないが、当店は担当者のセンスで棚が作られる。売れている(つもりの場合のある)書目と売りたい本(思い入れだけで実績なし)ちょっと表現が辛らつだけど、そうだ、自分のやり方を書くんだった。ボクは、新刊コーナーが一番ラクで一番つまらないと思っている。配本の多い書目が目立ち、そうでない本は新刊にも関わらず、在庫が増えすぎてしまったときには差しになってしまうこともある。とにかく新刊コーナーはキュウクツだ。そこで各版元ごとの棚前が工夫し甲斐のあるエリア。新潮社、文春、角川の棚前を、版元のフェアとあわせて、作家やジャンルでコーナー展開をつくる。強力な書目を核にして展開する場合とジャンル作品を展開する場所を決め内容をすこしずつ変えながら徐々にお客様を付けていく。ジャンルは警察もの、恋愛小説(かるいやつ)、ファンタジー、ミステリ(大雑把だけど客層ごと)などを考える。本の本コーナーも作る。作家は村上春樹、藤沢周平、池波正太郎、司馬遼太郎、山本周五郎、湊かなえ、東野圭吾など列挙すると脈略がないけどそれぞれに似合う棚前だとそれほど違和感はない。それぞれのコーナーがお客様にとってお気に入りの場所になるようなつもりで棚を育てたい。フェアはそれをこわすもの。でも、マンネリ感をリセットしてくれる効果はある。新しいジャンルや作家に気づくこともあるかもしれない。ここまで書いてなんだけどこんな愉しいことができるのは当店の文庫の売り上げが売り場面積に対して大した事ないからである。半分負け惜しみもあるけど。
ボクの並べ方(藝術書)

芸術書は、本屋をやっていて最も売りたいジャンルのひとつだ。ボクのアイドルといえるアーティストの本は特に目立つ様に並べたり、既刊本と合わせてコーナー展開、ホントは派手に本を動かしたいけどそんなに動かない。お店についているお客様の嗜好する本をほとんどが複数冊数を売ることが難しいけど一冊一冊並べていくことの繰り返しがけっこう愉しい。1・2年ごとに大規模な棚整理を行う。どうしても動かない本たちとのお別れ。たくさん売れた本は動き続けている間は追いかけ、データとして活用することはない。過去だから。売りたい本を売れるように工夫する代表的なジャンルだ。